「事務長の仕事は何ですか?」——一言で答えるのが難しい質問です。医事課上がりで診療報酬を磨いてきた事務長、データ分析で経営判断を支える事務長、地域連携の渉外を担う事務長、組織開発と翻訳業を中心に動く事務長——。クリニックの規模・院長の志向・事務長のバックグラウンドによって、重心は大きく違います。8つの領域に整理して、その全体像をお伝えします。
事務長業務の8領域(全体像)
2021年に事務長WG(複数クリニックの現役事務長有志)でまとめた事務長業務カテゴリは、大きく以下の8領域に分かれます。
- ① 診療部 — 事業企画・経営理念業務フロー設計、人員計画、経営計画立案、診療報酬・介護報酬を見据えた組織戦略、価値観の醸成、多職種連携
- ② 事務部 — 患者対応・スタッフ対応・診療報酬・IT管理クレーム対応、未納金管理、ワクチン業務、院内ルール、レセプトチェック、算定漏れ対策、PCネットワーク、消防点検
- ③ スタッフ・庶務 — 営繕・契約管理設備管理、修繕、訪問車両のタイヤ交換、医療機器購入、保険管理、テナント物件、盗難対策
- ④ 人事労務 — 採用・勤怠・労務・育成・配置求人作成、面接、入職オリエン、勤怠管理、給与計算、社会保険、産業医、36協定、教育研修、評価制度
- ⑤ 財務・会計 — 会計管理・士業調整決算資料作成、金融機関対応、月次管理、士業との調整(会計士・社労士・弁護士・税理士)、補助金手続き
- ⑥ 広報・マーケティング患者満足度調査、集患、広報誌、HP・SEO・MEO、SNS、看板広告
- ⑦ 行政申請手続新規施設基準、定時報告(在支診等)、麻薬施用者免許、個別指導、医療機能情報提供制度
- ⑧ 対外業務 — 地域連携・渉外医師会、地域包括への挨拶回り、連携カンファレンス、地域勉強会、表敬訪問、見学対応、治験
これら全部をひとりの事務長がやれるか——答えは NO です。クリニックの規模、院長の志向、事務長のバックグラウンドによって、重心は大きく異なります。
事務長の主な4タイプ
10年現場で関わってきて、在宅医療クリニックの事務長は大きく次の4タイプに分かれると感じています。どのタイプが正解ということではなく、クリニックの状況と必要としている機能でマッチングが決まります。
① 医事課上がり型
診療報酬・算定・施設基準を熟知。レセプトチェックや算定漏れ対策、行政申請が強み。領域 ② 事務部(診療報酬業務)/⑦ 行政申請 が重心。
新設クリニック、診療報酬の取りこぼしが課題のクリニック、施設基準の届出整備が必要なクリニックに向いています。一方、組織開発や対外渉外は弱いケースが多い。
② データ分析・経営企画型
経営数字を読み解き、KPIを設計し、院長の判断材料を整える。領域 ① 診療部(事業企画)/⑤ 財務・会計 が重心。
「なんとなく忙しいけど利益が残らない」「複数拠点を比較したい」「医師パフォーマンスを定量化したい」というクリニックに向きます。在宅の患者数増減監視、レセプト枚数からの増員試算など、数字で語れる事務長です。
③ 渉外・地域連携型
医師会、地域包括、ケアマネ、訪問看護ステーション、薬局——外部とのリレーションを担う。領域 ⑧ 対外業務/⑥ 広報マーケティング が重心。
新規開業時の地域への挨拶回り、連携カンファレンスの運営、特養との契約締結、見学対応、新規拠点開設の事前面談など。在宅医療は地域に根付いてこそ成り立つので、このタイプの事務長がいるクリニックは紹介患者数が安定します。
④ 組織開発・翻訳型
スタッフの困りごとを吸い上げ、抽象化し、院長と議論して仕組みに落とす。領域 ① 経営理念/② スタッフ対応/④ 人事労務 が重心。
「院長一人で抱え込んでいる」「離職が止まらない」「組織が成熟しない」というクリニックに向きます。実務担当ではなく、方針決定・OK出し・合意形成が中心。週1.5日の業務委託でも機能することがあります。私自身(石塚美絵)はこのタイプです。
クリニック規模との関係
事務長を「ひとり」置くか、複数の機能で分担するか——規模で考えると次のように整理できます。
- 常勤医師1〜2名:兼務型(院長+事務員1名で広く浅くカバー、専任事務長は不在のことも)
- 常勤医師3〜5名:専任事務長1名(4タイプのいずれか)。役割分担を明確化しないと事務長の疲弊が早い
- 常勤医師6名以上 / 複数拠点:事務部複数体制(医事課・労務・総務を別建て、事務長は方針・統括)
MI-ZAがおもにご一緒しているのは 常勤医師1〜5名規模 のクリニック。このゾーンは、事務長を1人雇うかどうかで悩む規模です。
事務長を採用するのは難しい
在宅医療を理解している事務長候補は限られ、年収600万〜800万円でも見つからないクリニックが多いのが現実。さらに、上の4タイプのうち どのタイプを必要としているか を院長が言語化できていないと、採用しても噛み合わずに数年で離脱、というケースをよく見ます。
「事務長を採用すべきか/兼務で回すか」「どのタイプを採用すべきか」——この設計こそが、実は最大の経営判断です。
AIで何が変わるか
8領域のうち、AIで省力化できる範囲を整理すると次のようになります。
- ① 診療部(事業企画):データ集計・KPI算出はAIで自動化、判断は人
- ② 事務部(診療報酬・IT):レセプトチェック・算定漏れ抽出・指示書下書きはAIで大幅省力化
- ③ 庶務・契約:契約書テンプレ生成・スケジュール管理は一部AI化可能、現場対応は人
- ④ 人事労務:勤怠データ抽出・労務リスク検出はAI、面談・配置判断は人
- ⑤ 財務・会計:仕訳・月次レポート自動化、士業との対話は人
- ⑥ 広報マーケ:HP原稿・SNS下書き・MEO対応はAI、関係性構築は人
- ⑦ 行政申請:書類作成補助はAI、行政との折衝は人
- ⑧ 対外業務:基本は人(顔の見える関係性が必須)
AIで時間が浮く領域は確実にあります。一方で、判断・関係性・合意形成・現場対応は人にしかできません。「事務長を置くか/AIで代替できるか」ではなく、「事務長の時間配分をどう変えるか」という発想に切り替える時期です。
MI-ZAの位置づけ
MI-ZAは、事務長の仕事のうち、AIで省力化できる部分と、判断や合意形成のように人が担う部分を分けて、院長と一緒に体制を考えます。AIは、書類づくりやデータの集計などに使います。
- 医療機関の経営・運営支援:経営企画・組織開発・マーケティングの3つの軸で、テーマ別にご相談
- データを活かした経営・業務改善:AIによる書類作成などの業務の自動化
「うちのクリニックは何タイプの事務長機能が必要か」「兼務で回せるか、専任が必要か」「どこをAIで省力化できるか」——迷われている院長は、ぜひ一度ご相談ください。
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この記事の発信元
在宅医療の現場で事務長を務めてきた経験をもとに、医療機関とヘルスケア企業を支援するMI-ZA。本記事の知見は、医療機関の経営・運営支援に活かしています。
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